水平線に手が届く

鴻巣市のいじめ事件記録【誰かが被害を繰り返さない為に】

【鴻巣市いじめ事件の記録No.12】

12月、2度目の復学が学校によってくつがえされた後、私の弁護士から次の通知がありました。「いじめ重大事態となったので、12月14日に調査委員会からの聞き取りがあると決まったと、学校から報告がありました」というものでした。

 

鴻巣市の資料や報告書は、学校がこの調査委員の設立と今後の取り組みについて私たちに説明していたと書いています。しかし以前の記事でも触れましたが、私たちは一切、その説明を受けていませんし、書面の受け取りもありません。聞き取りの日、私たちは初めて調査委員のメンバーを知ることになります。

 

鴻巣市教育委員会のF氏は「(調査委員決定に関する)書面はない(のが普通である)」と後に回答しています。いじめ調査が決定しても、被害者側に事前の説明は必要ないという意味です。当然、これは文部科学省制定の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」に反する違反行為です。

 

また、鴻巣市教育委員会は他の多数の点でも「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」等の法的規範に完全に反する行動を取っています。例えば、調査委員の選定です。当時は知り得ませんでしたが、この調査委員は全て市教育委員会と”繋がり”のある人物でした。言うなれば、彼らは第三者ではなく、市教委が「こうして欲しい」と言えば「はい、そうします」と言える関係にある人物達だったのです。

 

「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」の第4項には、明確に次の記述が示されています。

 

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調査組織については、公平性・中立性が確保された組織が客観的な事実認定を行うことができるよう構成すること。このため、弁護士、精神科医、学識経験者、心理・福祉の専門家等の専門的知識及び経験を有するものであって、当該いじめの事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者(第三者)について、職能団体や大学、学会からの推薦等により参加を図るよう努めるものとする。

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この関係性を知り得なかった(事前に知らされていなかった)当時の私たちは、ようやく自分の意見を公平に、そして寄り添って聞いていただける場に臨めると思ったのです。ところが、調査委員の聞き取りが始まってから、すぐに違和感を覚え始めました。会話の中でいくつもの疑問を感じる場面に出くわしたのです。

 

例えば、息子が小学校のいじめに関して話しました。息子は小学6年からいじめられていたAと同じクラスになりました。そのAが、息子がそばを通りかかったタイミングを見計らって、わざと息子に聞こえるように、他校から進級して同じクラスになったB(後の加害児童のひとり)に、「こいつすぐチクるんだぜ」と話しました。このAの言葉を聞いた時の気持ちについて、息子は「また中学でもいじめられると思った」と言いました。

 

この息子の言葉が意味するところは、これまでの経緯を知っていれば誰でも理解できます。息子は小学校6年生の時、このAから毎日毎日、ずっと暴力と暴言を受け続けました。それを先生に訴えたら、Aは「お前チクったな」と言って、もっと強い暴力やひどい暴言を受けるようになりました。そのAが中学校でも同じクラスになり、「こいつはチクる奴だ(チクったらどうなるか分かるよな)」という"暗黙の脅し"を行ったということです。それを聞いて、息子は「またいじめられる」と考えたのです。

 

この調査委員で特に私たちの発言に懐疑的な立場を示し続けた人物がその息子の話を聞いて、「"コイツすぐチクるんだぜ"は、コイツすぐチクるから、関わるのよそうぜという意味だ」「だから、いじめるのは考えにくい」と、息子の言葉を全面的に否定しました。(これは「いじめの調査のための聞き取り」であり、息子の言葉を追及する「取り調べ」ではありません。)

 

その捉え方はあまりに事実とかけ離れていましたので、私は先ほどのような説明をしましたが、その人物はこう言いました。

 

・そんなこと(チクると余計にいじめられるということ)は私の周りで聞いたことが無い

・そもそも本当にいじめがあったとしたら、〜(息子)はAに近づくこともできなかったはずなのに、どうしてAのそばを通りかかって、その発言を聞くことが出来たのか?

 

その人物はこのようなことを言って、結局、息子の発言に一切の理解を示してくれませんでした。

 

息子が「3人のクラスが替わらなければ学校に行けない」と述べたところ、その人物は即座に「それはお母さんの考えか?」と私に詰問をしました。私はその言葉の意図を掴めずに困惑し、これまでクラス替えや別室指導の決定が校長によって覆された経緯を述べました。すると、「学校に行かせられないという〜(息子)の意見は、お母さんの考えということで良いですね」などと念を押され、強引に結論付けられました。

 

その3人からいじめを受け続けていた本人が、その3人が前と変わらずにいるもとのクラスに戻りたくないとずっと言っていました。もちろん、私もこれ以上の息子へのいじめを阻止するためにも、クラス替えは必要だと思っていました。当たり前ですが、この時の息子と私は同じ気持ちでした。それにも関わらず、先ほどの私の回答をもとに、調査委員は「息子が学校に『行かせられない』のは母親が原因である」という結論を導きました。

 

他の調査委員も、「いじめは10月から始まったってこと?これ?」と資料を見ながら聞いてきたこともありました。私たちはここまで一貫して、小学校からいじめられていたと言っているにも関わらず、彼らは2ヶ月前から始まったばかりのいじめだという認識で話を進めようとしていたのです。

 

つまり、調査委員には、既に鴻巣市教育委員会からの指示が通っていたものと思います。最初から彼らの中で「いじめは重大なものではない」「不登校は本人と保護者が原因である」という物語があり、その結論ありきで「取り調べ」を行い、私たちの回答を都合よくその物語に反映させていったのです。

 

この時の話し合いについて、実際の録音資料が残っています。一部抜粋し、調査委員と息子の会話を書き起こします。

 

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2019年12月14日 いじめ重大事案、調査委員からの聞き取り

調査委員4名(1・2・3・4)

 

1:最後に本人から何か言いたいことある?

息子:どうしたら学校に行けますか?

1:行きたい?うーん…

2:行きたいのか?学校に行きたいのか?

3:行っちゃえば?

息子:えっ?!いじめっ子がいなければ…クラスを替えるには…

1:クラスを替えるには?

4:〜君が別のクラスになるのは嫌なの?

息子:はい。

2:今のクラスがいいの?

息子:はい。

1:今のクラスにその3人がいなくなれば行ける?

息子:はい。

4:他に嫌な子はいない?

息子:はい。

4:3人だけ?

息子:はい。

4:じゃあ、2年になったら(その3人が別のクラスになったら)行けるよね?(※補足:2年に進級するのは、この段階から3か月先です。その間、息子はどうしろと…不登校のままでいろということでしょうか…?)

息子:今もです。(3人が)違うクラスに。

1:違うクラスになったら行きたい?

息子:はい。違うクラスになれば。

2:3人が違うクラスに行けば?

息子:はい。

3:がんばってもいけない?いじめられるんじゃないかと思って行けない?

息子:え?違うクラスになったら?

3:ならない。同じクラス。

2:違うクラスにならないと行けない?

息子:はい。

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この調査委員たちは加害児童側にも聞き取りを行っています。その内容は細かく公表できないので割愛しますが、内容は私たちへの対応とまったく違うものでした。加害側に取り入るような態度で冗談を言うことすらありました。中でも加害児童Bに対してなぜか「媚び」の様子が大いに見受けられ、あることで好成績を残していたBの状況に触れて「私の(高校の)後輩にならないか?」などと何度も言っている場面がありました。

 

この加害児童Bと保護者への調査委員の聞き取りの中でも、顕著なえこひいきが見受けられたのは「トイレの土下座」に関する質疑応答でした。出来事の経緯と状況を以下にまとめます。

 

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①1学期に発生したいじめ行為

Bが息子に対して、「中間テストで順位が低い方がトイレで土下座な」と命令しました。テスト後、Bは息子に順位を言えと言って、息子がそれを言いました。するとBは「自分の勝ちだ」と言い(自分の順位を言わず)、「土下座しろ」と命令しました。息子は拒絶しましたが、数日後、息子がトイレ前を通りかかった際、そこでBとCが土下座を強要しました。Bが「テストで負けたんだからやれよ」と言いました。息子は膝をついて、四つん這いの状態になり、Bが頭を押さえ付けて、数十秒土下座をさせられました。その時、BとCが笑う声が聞こえたそうです。

 

この光景は一部の生徒たちが目撃していました。(後に警察の聞き取りと、他の生徒の父親による「人だかりになっていた」という証言もあり、こちらが明らかになっています。)衆人環視の中で、息子はトイレで土下座をさせられました。

当時を振り返り息子は「すごくみじめな気持ちになった。トイレで土下座って普通ないよ。

あいつら笑ってて、イライラした。」と私に話しました。学校に行くことが本当に辛くなっていったといました。

 

また今でも息子はこの時のことを忘れることができず、いまだに学校のトイレを通りかかると、その時の記憶を思い出してしまうことがあるそうです。私にとっても最も許すことのできないいじめ行為のひとつです。

 

②学校側の対応

学校側がようやく調査に乗り出したのは12月23日でした。息子がトイレで土下座させられたことのアンケートを取っています。市の資料によると、その後の12月26日、B保護者が学校に出向いた際、B保護者は【Bが~に土下座させたときの周囲の生徒の反応】を学校側に質問したそうです。それに対し、校長は「いじめ調査委員会で明らかにされる。ここでは話すことはできない。」と言ったことが書かれています。

 

③調査委員の聞き取り

この一件について、Bは調査委員の聞き取りを受けましたが、やったかどうかの質問には明確に答えず、それどころか「トイレでの土下座」といった表現も一切使わないで、「なんちゃらかんちゃら」などと言った表現で誤魔化しました。そして、調査委員はそれに対して、私たちの時とはまったく違ってほとんど質問や追及をしませんでした。また、Bはトイレの土下座を「別の生徒から命令された」「音楽室でいきなり背中を叩いたことも別の生徒がやったことだ」と証言し、それについても調査委員はほとんどスルーの状態で質問や追及をしていません。それどころか、Bに対し、労いの言葉すら掛ける場面も散見しています。

 

(※補足:ここでBが名前を挙げた"別の生徒"の2名について、息子は彼らからはまったくいじめられていないと断言しており、いい奴で優しかったと言いました。うち1名の生徒からは息子と意見と同じように、仲が良かったと言ってもらっています。)

 

④調査委員作成の報告書

調査報告書において「土下座をさせられた」という件はいじめ認定がなされていますが、ほとんどその詳細が記されていません。驚くべきことに、「トイレ」という言葉や、詳しい内容がどこにも書かれていないのです。

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鴻巣市教育委員会が”用意”した調査委員。彼らは「被害者は加害者で、加害者が被害者だ」「いじめは存在しない」「学校は悪くない」「不登校は本人と保護者が原因だ」という物語を鞄に詰め込み、私たちを”尋問”しました。当時の調査委員のあからさまな否定的な言動を、私たちは決して許すことが出来ません。鴻巣市教育委員会、調査委員、中学校、そして加害側の保護者たち──彼らが一枚岩となって私たち被害者を追い詰めている構図が、そこにありました。

 

11月20日付の鴻巣市教育委員会作成の資料に「B保護者の議員への動き」という一文がひっそりと記載されております。私たち被害者側には図りし得ない忖度の関係があったようです。

 

私の身内が都庁の教育関係の部署にいたので、息子のことを相談したことがありました。この相談で、私はフリースクールがあること、そしていじめ相談は地方議員にすると動くかもしれないこと、それぞれのアドバイスを貰いました。フリースクールの方は残念ながら遠方地であるために行くことができず、議員への相談も敷居が高い気がして出来ませんでした。

 

それから2年位経ち、鴻巣市教育委員会の作成したいじめ報告書が嘘まみれであることに関して、ポストにチラシの入っていたある地方議員に勇気を出して、連絡してみました。その地方議員は教育関連の取り組みもされていると言いましたので、相談に乗ってくれるのではないかと思いました。その方は私の話を聞き、この件に気が付いたのか、急に「これから会議があるから折り返します」と言って、電話番号も聞かずに切ってしまいました。それ以降、一切連絡をいただけませんでした。

 

無力な人に救いの手を差し伸べてくれる人はいないんだ、誰も信用できないんだと、当時は思いました。これは、鴻巣市教育委員会の不正行為が新聞記事として報道されるよりもっと前の出来事でした。

 

(次回へ続く)